父の前と、背の後ろと。

かわいい妹は
一人埼玉に残って
ゼミ合宿なんだ。
がんばれよ。


ということで。
群馬県猿ヶ京温泉へ一泊二日
父と母と家族旅行へ行く。


里で
ずっと探していた
ゴム底ではない
桐下駄を見つける。
買ってくれた。
わらじも買う。
かえるの桐クリップも買う。
父の会社の机用。
母は藍染のハンカチ
友達へのプレゼント用。
お昼におそばとまいたけてんぷら。
妹のお土産に
七宝焼きのペンダントを買う。


与謝野晶子文学記念館で
「みだれ髪」を買う。


買ってばっかり
観光はお金を落とす旅だと、
母が愚痴る。


露天風呂。
90段もある階段をおりて
自転車置き場みたいな野外脱衣所で支度。
源泉かけ流しに先客一人。
東京から来たおばさん。
桐下駄の話をする。
あたしはそのくらい
欲しかった下駄を手に入れたことが
うれしかったのだ。


夜。
持ってきた寺山修司の「家出のすすめ」と
「みだれ髪」を読む。
父と浴衣で外を歩く。


*父の前で子どもをし
*父の後ろで
*父の知らない姿をし
*その眼で父を眺めては
*鼻の奥があたたかく
*父を想う歳を知る。


母と並んで寝転んで
顔にぺたりとパックをし、
ケータイに詩を書いて
眠る。


いつもより早く就寝する、
夜。